「留学中も年金を払う必要があるのか?」
「将来、ちゃんと年金をもらえるか心配…」
留学準備の中で見落としがちな「国民年金」の手続き。正しい選択をすれば将来の安心につながる一方、知識不足のまま手続きをすると、帰国後に思わぬトラブルや経済的損失を招くことも。
この記事では、海外留学中の国民年金に関する選択肢とその手続き方法を紹介します。将来のあなたを守るための知識を、出発前にしっかり身につけましょう。
基本知識
20歳以上は国民年金の納付義務がある
まず、日本の国民年金制度の基本を確認しましょう。日本国内に住民登録があり、20歳以上60歳未満の方には、国民年金への加入と保険料の納付義務があります。
これは、高齢になった時の「老齢年金」だけでなく、病気や怪我で生活に支障が出た場合の「障害年金」、働き手を失った家族のための「遺族年金」といった、人生のもしもに備えるための大切な社会保障制度です。
重要
「海外転出届」の影響
留学前に確認!海外の大学への留学など、1年以上日本を離れる場合は、お住まいの市区町村役場に「海外転出届」を提出することが一般的です。この手続きを行うと、法的に日本の住民ではなくなります。
国民年金の加入義務は「日本国内に住所を有する」ことと定められているため、海外転出届を提出し、日本の住民票がなくなった時点で、原則として国民年金の強制加入被保険者ではなくなり、保険料を納める「義務」がなくなります。
- 国民年金の強制加入被保険者ではなくなります。
- 国民年金保険料の納付義務がなくなります。
短期留学の注意点
住民票を日本に残す場合
留学期間が比較的短い(概ね1年未満)などの理由で、住民票を日本に残しておく場合は、引き続き日本国内に住所がある扱いとなるため、国民年金の第1号被保険者として保険料の納付義務は継続します。
選択肢1
保険料を「払わない」場合のメリット・デメリット
海外転出届を提出した場合、国民年金保険料の納付義務がなくなるため、留学期間中は保険料を支払わないという選択をすることができます。
メリット | デメリット |
留学期間中の国民年金保険料(月額約1.7万円、令和6年度)の経済的負担をなくすことができます。 留学費用や生活費に集中できるのは大きな助けとなるでしょう。 | 保険料を納めていない期間は、将来65歳から受け取ることができる老齢年金の受給額には反映されません。 年金額は、保険料を納めた月数に基づいて計算されるため、納付期間が少ないとその分年金額も少なくなります。 |
ただし、国民年金には老齢年金を受け取るために必要な「受給資格期間」(原則として保険料を納めた期間と免除期間等を合わせて10年以上)があります。
海外転出中に国民年金保険料を納めていなかった期間も、この受給資格期間には算入される場合があります。
この期間を「カラ期間」と呼び、年金額には反映されませんが、年金を受け取る権利を得るための期間としてはカウントされます。
選択肢2
将来のために「払い続ける」国民年金任意加入制度
海外転出届を提出して日本国内に住所がなくなった場合でも、希望すれば引き続き国民年金に加入し、保険料を納めることができる制度があります。
これが「国民年金任意加入制度」です。
- 日本国内に住所を有しない20歳以上60歳未満の日本人で、国民年金の被保険者ではない方。
- 老齢年金を受け取るために必要な資格期間(10年)を満たしていない方。
- 過去に国民年金に加入したことがある方。
- 将来受け取る老齢年金の額を増やすことができる
保険料を納めた月数が多くなるほど、将来受け取る年金額が増えます。留学期間も大切な加入期間とすることで、より豊かな老後生活の基盤を築くことができます。 - 万が一の障害年金・遺族年金の保障が継続される
国民年金の被保険者期間中に病気や怪我で障害状態になった場合、または亡くなった場合に、一定の条件を満たせば障害年金や遺族年金が支給されます。任意加入することで、留学中の万が一の事態に対しても、本人や残された家族への保障を継続できます。特に、任意加入していない期間に障害状態になったり死亡したりした場合、これらの年金を受け取れない可能性があるため、非常に重要なメリットと言えます。
留学中に国民年金保険料の支払い負担が発生します。
注意
留学生は「学生納付特例制度」を使えない
国民年金には、学生の経済的負担を軽減するため、申請により保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」がありますが、この制度は日本国内の大学や専門学校などに在学している学生が対象です。
残念ながら、海外の大学に留学する場合は、この制度を利用することはできません。したがって、たとえ住民票を日本に残して国民年金の納付義務があるとしても、留学を理由に学生納付特例制度を利用することはできません。
出国前に必ず確認!
任意加入の手続き方法
国民年金任意加入制度を利用するには、ご自身で手続きを行う必要があります。
手続きは日本を出国する前に、お住まいの市区町村役場の国民年金担当窓口または最寄りの年金事務所で行います。
- 手続き場所
出国前の市区町村役場国民年金担当窓口、または管轄の年金事務所 - 主な必要書類:
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 印鑑(認印可)
- 任意加入を希望する期間や納付方法に関する書類
- (海外転出届を提出する場合)海外転出届の控えなど
保険料の納付方法については、日本国内にいる親族などに依頼して預金口座からの振替で納める方法が一般的です。具体的な手続き方法や必要書類は、個人の状況によって異なる場合があるため、必ず事前に手続きを行う窓口に確認してください。
まとめ
将来のために最適な選択を
海外留学中の国民年金について、主に以下の2つの選択肢とその影響を知っておくことが重要です。
- 海外転出届を提出し、保険料の納付義務をなくす
- 留学中の保険料負担なし。
- 将来の老齢年金受給額は減る可能性がある(カラ期間に算入される場合あり)。
- 留学期間中の障害年金・遺族年金の保障は受けられない。
- 海外転出届を提出しても、任意加入制度を利用して保険料の納付を続ける
- 留学中に保険料の支払い負担あり。
- 将来の老齢年金受給額を増やせる可能性がある。
- 留学期間中の障害年金・遺族年金の保障が継続される。
どちらの選択がご自身やご家族にとって最適かは、留学期間、経済的な状況、そして将来どのような年金を受け取りたいかといった考え方によって異なります。
まとめ図
留学中の国民年金
払う? 払わない?
基本知識
20歳以上は納付義務あり
20〜60歳
- 日本国内に住民登録がある方は納付義務あり
- 老齢年金/障害年金/遺族年金など
- 人生の”もしも”に備える社会保障制度
- 月額約1.7万円(令和6年度)
留学前に要確認
海外転出届
- 転出届提出→住民票抹消
- 国民年金の納付義務が「なくなる」
- 市区町村役場で手続き
1年以上の海外滞在なら必須手続き
2つの選択肢を比較
海外転出届後、納付義務ゼロ
メリット
- 月1.7万円の負担カット
- 留学費用に集中できる
デメリット
- 納付期間に反映せず
(将来の年金額が減る可能性) - 障害・遺族年金の補償なし
受給期間(カラ期間)
カラ期間として”受給資格10年”にはカウント可
任意加入制度で保険料を納付
メリット
- 将来の老齢年金額
- 障害・遺族保障継続
デメリット
- 留学中も支払い負担あり
(月額約1.7万円)
受給資格
納付期間そのままカウント
任意加入の手続き方法
自分に当てはめてチェック!
住民票を残す
納付継続
海外転出届
任意加入検討
留学中の国民年金について、詳しくはお住まいの市区町村役場または年金事務所にご相談ください。