この記事は、国際バカロレア機構(IBO)が公開している公式情報および日本語の科目概要に基づき、保護者としての実体験を加えて解説しています。
IBDP必修科目CASとは?
国際バカロレア(IB)のディプロマ・プログラム(DP)(16-19歳対象の大学入学資格取得プログラム)の資格を取得するために、すべての学生が履修しなければいけない課外活動のことをCASと呼びます。
CASは「Creativity(創造性), Activity(アクティビティ), Service(サービス)」の頭文字を取ったもので、IB生徒たちが多様な活動を通して自己成長を促すためのプログラムです。
CASの基本要件
A:Activity
S:Service
IB生徒は、創造性、アクティビティ、サービスの各分野から、それぞれ最低1つの活動を選択し、毎週3時間程度、最低18ヶ月間参加する必要があります。

CASの評価方法
CASは最終試験とは異なり、国際バカロレア機構(IBO)による正式な評価は行われず、CASの進捗状況は学校と学生の間で確認されます。
IB生徒は一定期間、各活動を実施し証拠をまとめた「CASポートフォリオ(活動記録や作品、振り返りをまとめたファイル)」と、自分の考えや学びを深く記録した有意義な「リフレクション(活動を通じた学びを文章で記録)」を保管しなければなりません。
CAS活動の具体例とアイデア集
Creativity(創造性)の活動例

Creativityは、様々な創造的なアクティビティを指し、生徒たちが自分自身のアイデアや創造性を発揮し、自分たちの関心や情熱に合わせた独自のプロジェクトを設計・実行することです。
デジタル・テクノロジー系
- WEBサイト制作、動画チャンネル開設
- 動画編集、デジタルアート制作
- アプリ開発、プログラミング
- ドローンを使った空撮映像制作
- VRコンテンツ制作
音楽・舞台芸術
- 音楽演奏、作曲、録音
- 舞台芸術(演劇、ダンス、演出、衣装デザイン)
- 楽曲制作、音響技術
ビジュアルアート
- 写真撮影、映像制作
- 絵画、彫刻、陶芸
- インテリアデザイン、建築デザイン
- 工芸品制作、アクセサリー制作
文芸・言語
- 詩や小説の執筆、文学の研究
- 翻訳、言語学習コンテンツ作成
- 学校新聞・雑誌制作
料理・ライフスタイル
- 料理、焼き菓子を作る、レシピ本の作成
- イベント企画・開催(学校、地域)
Activity(活動)の活動例

Activityは、体験やスキルを身につけるために、定期的に繰り返し行う活動に焦点が当てられます。新しいスキルを身につけたり、チームワークを発展させたり、自己の健康管理に役立つ活動です。
チームスポーツ
- サッカー、バスケットボール、バレーボール
- ラグビー、ホッケー、野球
個人スポーツ
- テニス、水泳、陸上競技
- ゴルフ、バドミントン、卓球
フィットネス・ウェルネス
- ダンス、ヨガ、フィットネス
- ジムトレーニング、ランニング、自転車
マーシャルアーツ
- 空手、柔道、テコンドー
- ボクシング、剣道
アウトドア活動
- 登山、キャンプ、サバイバルキャンプ
- ハイキング、スケートボード、スノーボード
知的・文化活動
- ジャーナリズム、ディベート、モデル国連
- 演説、陶芸などの伝統工芸
Service(奉仕)の活動例

Serviceは、地域社会に貢献する活動を指し、自分たちが住む地域や、国際社会に向けて、様々な問題に取り組むことができます。社会貢献の意識を高め、責任感を養うことが重視されます。
社会福祉活動
- 老人ホーム活動、高齢者の見守り・訪問活動
- 病院でのボランティア活動
- 障がい者支援、交流の場作り
- 点訳・朗読・手話などの支援活動
環境保護活動
- 森林や海辺などの自然清掃活動
- 公園や駅などの清掃活動
- リサイクル活動、プラスチック回収イベント
- 動物保護活動、植樹イベント開催
教育・学習支援活動
- 小中学生への学習サポート
- スポーツ教室の支援、キャンプの支援
- レクリエーション活動、手づくり工作指導
- パソコンの設定や操作指導
- 相談窓口開設
地域貢献活動
- スポーツイベント、エコイベント
- 地域の交流イベント、国際イベント
- 炊き出しイベント
- お祭りやフェスティバルの運営支援
国際協力・チャリティー
- チャリティー募金、チャリティーマラソン参加
- チャリティーバザー・コンサート開催
- 国際NGOの支援、海外ボランティア
- 不要な衣料品を回収し寄付
- 未熟児の為に帽子や衣類を編んで作成
CASで達成すべき「7つの学びの成果」
CAS活動には、IBOが定める以下の7つの「学びの成果」を達成することも求められます。
これら7つの学びの成果について、CASコーディネーター(学校でCAS活動をサポートする担当教員)、アドバイザー、サポートスタッフ、そしてIB生徒はそれぞれの言葉や意味について共通理解を持つ必要があります。
自己理解と挑戦(成果1-2)
学びの成果1:自分の長所と成長すべき点を認識する
一言でいうと:「自分の得意なこと、苦手なことを知る」
活動を通して「自分ってこういう人間なんだ」と客観的に理解することが、すべての成長の第一歩になります。
達成の目安
- 自分の長所と短所を自覚している
- 改善や成長の機会に対してオープンである
- 自分の興味や才能に応じた活動を提案することができる
- 自己評価をすることができる
学びの成果2:課題に挑戦し、その過程で新しいスキルを習得している
一言でいうと:「やったことのない事にチャレンジし、新しいことができるようになる」
例えば「動画編集に初挑戦して、最初は大変だったけどだんだん上達した」といった経験そのものが、この学びにあたります。
達成の目安
- 適切な個人的挑戦を要求するような経験に参加する
- 慣れない環境や状況に積極的に関わることができる
- 新しいスキルや能力を身につけることができる
- 確立された領域で専門性を高める
主体性と継続力(成果3-4)
学びの成果3:自らCASを計画し開始することができる
一言でいうと:「『これをやろう!』と自分で考えて、実際に行動に移す」
誰かに言われたからやるのではなく、「地域のごみ拾いを企画して友達を誘ってみた」というような、主体性が問われます。
達成の目安
- CASの段階(調査、準備、実行、振り返り、実証)を明確にし、計画を実行に移せる
- 新しいアイデアやプロセスを立ち上げ、イニシアチブを発揮することができる
- 創造的なアイデア、提案、解決策を提案することができる
- 目的、活動、資源を考慮し、首尾一貫した行動計画を立てることができる
学びの成果4:CAS活動を継続し、やり遂げる粘り強さを示す
一言でいうと:「決めたことを、最後まであきらめずに続ける」
途中で困難があっても、工夫して乗り越えたり、粘り強く続けたりする姿勢そのものが評価されます。
達成の目安
- CASの経験やプロジェクトに定期的に参加し、積極的に関与している
- 当初の計画に対する潜在的な課題を予見し、有効な代替案を検討することができる
- 不確実性や変化に対する適応性がある
- 長期的にCASの経験やプロジェクトに関与することができる
協働と社会貢献(成果5-6)
学びの成果5:自らのスキルを活かし、また他者と共に活動する意義を認識する
一言でいうと:「チームで協力することの大切さを理解する」
自分の得意なことで貢献したり、苦手なことを助けてもらったり。「一人でやるより、みんなでやった方がすごいことができる!」と実感する経験です。
達成の目安
- 技術や知識を共有する
- 同僚からの提案に敬意をもって耳を傾ける
- チーム内で異なる役割を積極的に引き受けることができる
- 異なる視点や考えを尊重する
- 他の人を助けることができる
学びの成果6:グローバルな課題に取り組む
一言でいうと:「身近な行動が、世界の問題につながっていると考える」
「世界平和!」のような大きな話でなくて大丈夫です。「マイボトルを使い、プラスチックごみを減らす」という身近な行動が、地球環境という世界的な問題にどう繋がるか想像することが大切です。
達成の目安
- ローカルな問題がグローバルな影響を持つことを認識する
- 地域社会または国内社会におけるグローバルな問題を特定することができる
- 世界的に重要な問題に対して具体的かつ適切な行動をとることができる
- 人類共有の問題に対する意識と責任を持つことができる
倫理的思考(成果7)
学びの成果7:選択と行動の倫理を認識し、考察する
一言でいうと:「自分の行動が、他の人や社会にどんな影響を与えるか、考えて行動する」
例えば「チャリティーで集めたお金を、本当に困っている人に届けるにはどうすれば一番良いだろう?」と、その方法や結果について深く考える倫理観を指します。
達成の目安
- 倫理的な問題を認識することができる
- 自分の倫理的アイデンティティに社会的な影響があることを説明することができる
- 計画や倫理的決定を行う際に、文化的背景を考慮することができる
- 選択と行動に対して説明責任を果たす
- 選択と行動が自己、関係者、地域社会に及ぼす影響について自覚している
CAS成功のための実践ガイド
活動選択のコツ
自分の興味と成長目標を明確にする
- 既存の趣味や特技を活用できる分野を探す
- 苦手分野にもあえてチャレンジしてみる
- 将来の目標や職業と関連する活動を選ぶ
バランスの良い組み合わせを考える
- 創造性・活動・奉仕が重複しないよう配慮
- 時間的に継続可能な活動を選択
- 一つの活動で複数の成果を達成できるものを探す
ポートフォリオ作成方法
必要な記録要素
- 活動内容の詳細記録(日時、場所、参加者など)
- 活動中の写真や動画
- 成果物(作品、証明書、感謝状など)
- 振り返り(リフレクション)の記述
効果的な記録のコツ
- 活動の瞬間瞬間を大切に記録する
- 数値で測れる成果があれば積極的に記載
- 他者からのフィードバックも収集する
- 定期的に記録を見直し、成長を確認する
効果的な振り返り(リフレクション)の書き方
振り返りのポイント
- 「何をしたか」だけでなく「なぜそれをしたか」
- 「何を学んだか」「どう成長したか」を具体的に記述
- 「次回はどうしたいか」という改善点や目標設定
- 7つの学びの成果との関連を意識して記述
質の高いリフレクションの例
- 困難に直面した時の対処法と学び
- 他者との協働で得た気づき
- 社会問題への理解の深まり
- 自分の価値観や行動の変化
よくある課題と解決策
時間管理の悩み
- 課題:「学業が忙しくてCASの時間が取れない」
-
解決策
- 既存の活動をCASに組み込む(例:習い事→Activity、ボランティア→Service)
- 週末や長期休暇を有効活用する
- 効率的な活動を選択する(短時間で成果の出やすいもの)
- 学業との相乗効果が期待できる活動を選ぶ
活動継続の困難
- 「最初は楽しかったが、だんだん続けるのが苦痛になってきた」
-
解決策
- 活動内容に変化をつける(同じ分野で違うアプローチ)
- 仲間と一緒に取り組む
- 短期目標を設定して達成感を得る
- 活動の意義や目的を再確認する
成果の証明方法
- 「7つの学びの成果を達成したか確信が持てない」
-
解決策
- 小さな変化や気づきも記録に残す
- CASコーディネーターとの定期面談を活用
- 客観的な証拠(写真、作品、第三者の評価)を収集
- 成果は完璧である必要はなく、成長過程が重要であることを理解
生徒に期待されること
CASを完了することは、IBのディプロマを取得するうえで必須の要件です。公式に評価はされないのですが、生徒は自分のCAS活動を振り返って、7つの学びの成果を達成したことを各自のCASポートフォリオで示す必要があります。
CAS期間と継続性
CASのプログラムは、DPの開始と同時に正式に開始し、定期的に(理想的には週1回のペースで少なくとも18ヶ月にわたって)継続し、「創造性」と「活動」と「奉仕」を合理的なバランスで実施する。
生徒の主な責務
- 自発的にCASに取り組む
- CASで期待されていること、およびCASの目的を明確に理解する
- 自分なりの目標を定める
- CAS活動に参加し、時には自発的に活動するほか、少なくとも1回はCASプロジェクト(複数の生徒が協力して行う長期的な取り組み)に取り組む
- 自分の興味、スキル、才能を的確に認識し、CASのプログラム期間中にこれらがどのように発展していくかを観察する
- CASポートフォリオに活動の記録をつけて、7つの学びの成果に達成した根拠を示す
- 振り返りのプロセスを理解し、CAS活動を振り返るべき時期を確かめる
- 自分のCASのプログラムで、創造性、活動、奉仕の適度なバランスがとれているかを確認する
- 適切かつ倫理的に判断し行動する
CASは「やらされる活動」ではなく、あなた自身が成長するための貴重な機会です。18ヶ月という期間を通じて、きっとあなたの人生を豊かにする特別な経験となるはずです。