予測スコアって正確なの?
IB(国際バカロレア)を学ぶ学生やその保護者がよく感じる疑問のひとつに
「予測スコアってどれくらい正確なの?」
「実際の最終スコアとどれくらい違うの?」
というものがあります。
特に大学出願の際には、この予測スコア(Predicted Grade)が合否に影響するため、気になるところですよね。
この記事では、IB予測スコアの仕組みや精度、ズレが生じる理由、そして信頼性についてわかりやすく解説します。
予測スコアとは?
予測スコアとは、生徒が最終的に取得するであろうスコアを、学校側が事前に予測して提出するものです。
国際バカロレア機構(IBO)の定義によれば、予測スコアは「教師が生徒の全ての作品の証拠とIB基準に関する教師の知識に基づいて、生徒が科目で達成すると予想される成績の予測」です。(出典:IB student assessment – International Baccalaureate®)
予測スコアは特に以下のような目的で使用されます
- 大学出願
最終試験の結果よりも前に出願が必要な大学への応募資料として - 奨学金出願
経済的支援を受けるための成績証明として - 生徒の学習目標設定
達成すべきスコアの目安として
予測スコアについての詳細は↓こちらの記事に書いています。

予測スコアの精度 – 統計データによる分析
予測スコアと最終スコアはどのくらい一致しているのでしょうか?この点について、IB Score Reports(現Acadamigo)が2013年~2017年に実施した大規模調査のデータを見てみましょう。
IB Score Reportsの調査(2013-2017)
IB Score Reportsが70の異なる学校から収集したデータによると、予測スコアと最終スコアの一致度は以下のようになっています。
スコアの種類 | 完全一致度 | ±1点以内の一致率 |
---|---|---|
科目スコア | 50% | 94% |
TOKスコア | 44% | 92% |
EEスコア | 38% | 86% |
出典:Acadamigo (旧IB Score Reports)「Predicted vs. Awarded Scores」
このデータから、「完全一致するのは約半数、ほとんどのケースで±1点以内に収まる」という傾向が見えてきます。
±1点の意味するもの
「±1点以内に収まる」とは具体的にどういう意味なのでしょうか?
IBの7点満点の評価システムでは、例えば予測スコアが5点であれば、最終的な実際のスコアは4点、5点、または6点になる可能性が高いということです。
1点の違いは小さく見えるかもしれませんが、IBの評価システムでは1段階のズレでも大学入学選考において重要な意味を持つ場合があります。特に競争率の高い大学や学部では、1点の違いが合否を分ける可能性もあるのです。

科目別・項目別の傾向
同調査によると、予測スコアの精度は科目によっても差があることがわかっています。
- Computer Science HLが最も予測の正確さが低く、過大評価される傾向がありました
- 一方、言語系の科目は比較的予測の正確さが高い傾向にありました
- Extended Essay (EE)では全ての科目で過大評価される傾向が強く、特にEconomics EEでは53%が過大評価、12%が過小評価されていました
なぜズレが生じるのか?
予測スコアと実際のスコアに差が出る理由はさまざまですが、主な要因には以下のようなものがあげられます。
- 体調や精神状態
試験当日の体調不良や極度の緊張により、普段の実力が発揮できないことがあります - 時間管理
実際の試験では時間制限があり、普段の練習とは異なる環境でのパフォーマンスに影響します
- 評価の主観性:教師によって評価基準の解釈や適用方法が異なる場合があります
- 過去の経験:教師のIB評価経験値によって予測の精度が変わることがあります
アイルランドのSEK Dublin International Schoolのディレクター、Chris Charleson氏によれば、「予測スコアと最終スコアの一致率は約60%」であると述べています(出典:The Irish Times, 2020)。
- 学校のIB経験:IBプログラムの提供歴が長い学校ほど、予測スコアの精度が高い傾向にあります
- 戦略的な予測:いくつかの学校では、生徒の大学進学をサポートするために意図的に少し高めの予測をする傾向があるとされています
Times Higher Educationの記事によると、「予測スコアが高すぎると(過大予測)、オファー条件を満たせなくなる可能性が高まる」という指摘もあります(出典:Times Higher Education, 2024)。
- 成長の継続:予測後も学習を継続することで、最終的に予測よりも高いスコアを得ることがあります
- モチベーションの変化:予測後の学習姿勢が変わり、それが最終スコアに影響することがあります
Univ-itのブログでは、「学校の先生によっては、IBのEnaminerよりも厳しい評価をつけることもあります。そのため、最終スコアがPredicted Gradeから大幅にスコアが上がった!という例も少なくありません」と指摘しています(出典:Univ-it!公式ブログ, 2024)。
予測スコアと大学出願の関係
予測スコアは大学出願において非常に重要な役割を果たします。特に最終試験の結果が出る前に出願締切がある大学では、予測スコアが合否判定の重要な材料となります。
地域別の予測スコアの重要性
英国・欧州の大学
英国やヨーロッパの多くの大学では、予測スコアに基づいて「条件付き合格(Conditional Offer)」を出す制度があります。
例えば
- オックスフォード大学
多くのコースで38~40点以上の予測スコアが求められ、特定の科目ではHigher Level(HL)で6点以上が必要とされています(出典:Rostrum Education, 2024) - ケンブリッジ大学
同様に38~40点以上の高い予測スコアが期待されています - ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)
基本的に34点以上が求められますが、競争率の高いコースではより高いスコアが必要です(出典:UCL – Entry Requirements)
Beyond The Statesによると、「英国の大学は通常、IB予測スコアの要件を明確に示しています。これらの要件は米国のトップスクールの平均よりも低い傾向があります」と指摘しています(出典:Beyond The States, 2024)。
米国の大学
アメリカの大学では、予測スコアは出願書類の一部として考慮されますが、英国ほど決定的な要素ではありません。総合的な評価(ホリスティック・レビュー)を行う傾向があります。
- ハーバード大学
通常40~42点の予測スコアを持つ学生を受け入れていますが、それ以外の要素も重視します - UCLA
38点以上の予測スコアを求める傾向にありますが、その他の実績が強い学生は低いスコアでも考慮されます
Nordanglia Educationのブログによると、「予測スコアは米国では重視されず、大学出願では学生の全体的な学業履歴、標準テストスコア(SAT、ACTなど)、課外活動などに重点が置かれる傾向がある」と説明しています(出典:Nordanglia Education, 2024)。
日本の大学
日本の一部の大学でもIB予測スコアを使った出願が可能です。EDUBALのブログによると、以下の大学がIB予測スコアでの出願を受け付けています(出典:EDUBAL, 2024)
- 早稲田大学(一部の学部)
- 慶應義塾大学(帰国生入試)
- 上智大学
- 国際基督教大学(ICU)
- 立命館大学
- 関西学院大学
- 立命館アジア太平洋大学
条件付きオファーと予測スコアの関係
条件付きオファーとは、予測スコアが大学の基準を満たしている場合に出される「条件付き」の合格通知です。最終的な入学許可は、実際の最終スコアが大学の条件を満たすかどうかによって決まります。
条件の例
- 「総合スコア36点以上、かつ特定の科目でHL6点以上」
- 「総合スコア38点以上、かつ数学のHLで6点以上」
Think Smartのブログでは、「一般的に最終スコアが条件を大幅に下回らない限り、大学は学生に対して柔軟に対応する傾向がある」と説明しています(出典:Think Smart, 2025)。
予測スコアと最終スコアのギャップが出願に与える影響
最終スコアが予測スコアよりも著しく低い場合、どのような影響があるのでしょうか?
- 条件付きオファーの取り消し
最終スコアが条件を満たさない場合、入学許可が取り消される可能性があります - 学部変更の要請
希望学部の条件は満たさないが、大学の他の学部なら条件を満たす場合、学部変更を勧められることがあります - 入学時期の延期
一部の大学では、条件を満たすために再試験を受け、次の学期や次の年度での入学を提案することがあります
IBlieveのブログでは、「最終スコアが予測スコアより大幅に下がった場合(例:42点予測で27点の最終スコア)、大学はオファーを取り消す可能性があります」という例を挙げています(出典:IBlieve, 2021)。
予測スコアの信頼性を高めるための取り組み
国際バカロレア機構(IBO)の取り組み
IBOは予測スコアの精度と信頼性を高めるために、いくつかの施策を実施しています。
- 学校ごとのカスタマイズされた予測分布の提供
過去の実績に基づいて、各学校がより正確な予測を行えるようサポート - ツールと研修の提供
教師がIB評価基準を正確に理解し適用できるようにするためのサポート - 過大・過小予測の監視
継続的に予測と実績の差を大きく外れる学校に対する対策
Pamojaの記事によると、「IBOは予測スコアの分布を超えた場合や、内部評価の結果がこれまでのコホートよりも弱いことを示しているにもかかわらず予測スコアが下げられていない場合、IBOは追加の品質保証措置を実施する」としています(出典:Pamoja, 2023)。
学校レベルでの精度向上施策
学校側でも予測スコアの精度を高めるための取り組みが行われています
- 模擬試験の実施
本番に近い環境での試験結果を予測に反映 - 過去の傾向分析
自校の過去の予測と実績の差を分析し、予測方法を改善 - 教師間の標準化
学校内で予測スコアの基準を統一する取り組み
Times Higher Educationによれば、「多くの学校では、年に2回(10月と2月)、そして最終年の4月に正式な予測スコアを発表し、生徒が異議申し立てを行う際には、詳細な根拠と具体的な証拠を提示するよう求める」という事例が紹介されています(出典:Times Higher Education, 2024)。
生徒自身ができること
生徒自身も予測スコアの精度向上と最終スコアアップのためにできることがあります。
- 一貫した学習姿勢
予測後も学習のモチベーションを維持する - 教師との良好な関係構築
自分の能力や努力を正確に伝える - 過去問による実践
試験形式に慣れ、本番での実力を発揮できるようにする
EDUBALの記事では、「授業に積極的に参加し、敬意を示す。教材を深く理解し、改善しようと努力していることを示す。教師は、熱心で献身的な生徒には高い予測スコアを出す可能性が高い」とアドバイスしています(出典:EDUBAL, 2025)。
まとめ
予測スコアは「ほぼ正確」だが絶対ではない
IB Score Reportsの調査データに基づくと、IBの予測スコアは多くの場合で±1点以内の誤差に収まっており、おおよそ信頼できる指標と言えます。
特に科目スコアでは94%が±1点以内という高い精度を示しています。
しかし、あくまで予測であり、試験本番の結果次第で最終スコアは上下するという点は忘れないでおくことが重要です。特にExtended Essay(EE)では過大評価される傾向が強いことを認識しておくべきでしょう。
- 予測スコアに過信しすぎず、本番まで努力を続けること
- 自分の学校の過去の予測スコアの精度を確認してみる
- 大学出願の際は、マージンを持って行動する
(予測スコアより少し低い条件の大学も視野に入れる) - 複数の大学に出願し、リスク分散をする
最後に、国際バカロレア(IB)の最終スコアは、あなたの知識や能力の一側面を示すものであり、大学生活や社会での成功を決定づけるものではありません。
IBを通じて培った思考力や探究心、国際的な視野こそが、長期的には最も価値のある財産になるでしょう。
参考情報、引用情報
- Acadamigo (旧IB Score Reports)「Predicted vs. Awarded Scores」
- IB student assessment – International Baccalaureate®
- Times Higher Education「How to manage IB predicted grades」(2024)
- Nordanglia Education「The Role of Predicted Grades in University Applications」(2024)
- EDUBAL「IB Predicted Grades – Why They Matter?」(2025)
- Univ-it!公式ブログ「IBDPの高得点って何点から?成績評価について徹底解説!」(2024)
- IBlieve「What are IB predicted grades? Do they matter?」(2021)
- UCL – Entry Requirements
- Rostrum Education「Cracking the Code: What IB Score Opens the Doors to Oxbridge Admission」(2024)
- Beyond The States「IB Scores Needed for Elite University Admissions」(2024)
- The Irish Times「Are schools ready for predicted grades? Some have used them for years」(2020)
- EDUBAL「【2024年度版】IBスコアで出願できる国内大学7選」(2024)
- Pamoja「The Official IB Predicted Grades」(2023)