IBの予測スコアとその重要性
「国際バカロレア(IB)の予測スコアって何?」
「大学出願にどう影響するの?」
IBを履修している生徒や保護者にとって、「予測スコア(Predicted Grade)」は進路選択において極めて重要な役割を果たします。
特に海外大学への進学を検討している場合、このスコアが合否を大きく左右することも少なくありません。この記事では、IBの予測スコアについて、その定義から活用法まで分かりやすく解説します。
国際バカロレア(IB)予測スコアとは?
予測スコアの定義と意義
予測スコア(Predicted Grade)とは、IBDPの最終試験前に、各科目の最終的な到達度を教師が予測する成績のことです。国際バカロレア機構(IBO)の公式サイトによれば、これは「教師が生徒の全ての学習成果と教師のIB基準に関する知識に基づいて、生徒が科目で達成すると予想される成績」と定義されています。(出典:IBO公式サイト – Student Assessment)
これは単なる「仮のスコア」ではなく、これまでの学習成果や取り組み姿勢、そして個々の潜在能力を総合的に評価した専門的な見通しです。
予測スコアが活用される主な場面
国際バカロレア(IB)の予測スコアは、主に以下の場面で重要な役割を担います。
- 大学出願プロセス
特に、最終試験結果が判明する前に出願期間が終了する海外大学を受験する際に不可欠 - 奨学金申請
多くの国際的な奨学金制度では、予測スコアの提出が応募条件 - 学習目標の設定
最終試験に向けた具体的な目標設定と学習計画立案の基準点 - 学校のアカデミックサポート計画
追加サポートやリソース配分の決定材料
国際バカロレア(IB)予測スコアはどのように決まるのか?
算出方法の基本原則
まず理解しておくべき重要なポイントは、国際バカロレア機構(IBO)が厳密に定めた「全世界共通の計算式」というものは存在しないという点です。
各IB認定校には一定の裁量があります。ただし、IBOからは「証拠に基づいた評価」を行うことが強く推奨されています。(出典:IBO公式サイト – 予測スコアに関するガイダンス)
予測スコア算出で考慮される4つの主要要素
多くのIB認定校で共通して考慮されるのは、これまでの学業成績や取り組みを示す以下の4つの要素です。
- 授業内で行われる定期テストの成績
- 単元テスト
- 学期末試験
- 小テスト
- プレゼンテーションの評価
- 模擬試験(Mock Exam)の結果
IB本番の試験形式・環境に準じて行われる試験(特に重視される傾向が強い) - 内部評価(IA: Internal Assessment)の進捗状況と質
- レポート
- 研究課題
- 口頭発表などの完成度
- フィードバックへの対応
- 授業への参加度・関与度
- 授業中の積極性
- グループワークへの貢献
- 探求的な学習姿勢

主観と客観のバランス
教員は客観的なデータに加えて、日々の努力の様子、成長の度合い、潜在能力も考慮します。評価の公平性と信頼性を確保するために、多くの学校では以下の取り組みを導入しています。
- 複数教員によるモデレーション(調整)プロセス
- 過去のデータとの照合
- 明確な評価基準の策定と共有
- 定期的な評価研修
予測スコアの発表時期
試験スケジュールと予測スコアの関係
IBDPの最終試験は世界で年2回実施されます。
- 5月試験コース
9月入学の北半球の学校(欧米など) - 11月試験コース
2月/3月入学の南半球の学校、日本の一条校など
予測スコアの発表時期
- 1年目の6月頃
初期の予測スコア - 2年目の10月~12月頃
主要な大学出願用のスコア - 2年目の1~3月頃
最終更新(一部の大学向け)
- 2年目の4月~5月頃
初期予測スコア - 2年目の8月~9月頃
大学出願用のスコア - 最終試験直前(10月頃)
最終更新(一部の学校のみ)
出典:Think Smart Tutoring – IB Predicted Grades
時期による予測スコアの変動
一般的に、最初の予測スコアよりも後の時期に更新される予測スコアの方が高くなる傾向があります。これには以下のような理由が考えられます。
- 学習の進展に伴うスキルの向上
- 模擬試験や内部評価への取り組みによる成長
- 最終試験に向けたモチベーションの高まり
- 教員からのフィードバックを活かした改善
ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、予測スコアが下方修正されるケースもあります。
- 授業への参加度や提出物の質が低下した場合
- 模擬試験の結果が思わしくなかった場合
- 内部評価の進捗が遅れている場合
日本の大学入試における予測スコアの扱い
日本の大学によって予測スコアの扱いは異なります。
- 予測スコアを認める大学
上智大学や早稲田大学など一部の大学では予測スコアでの出願を認めており、「条件付合格」となり、最終スコアが判明後に最終合格となります。(出典:上智大学 – 入学試験要項、国際バカロレア(IB)を活用した大学入学者選抜例(令和5年1月時点)) - 最終スコアのみを認める大学
慶應義塾大学のように最終スコアのみを認め、予測スコア(Predicted Grades)では出願できない大学もあります。(出典:慶應義塾大学 – 学部入学案内 - 国際バカロレア(IB)入試)
出願を検討している大学の最新の入試要項を必ず確認し、予測スコアが使用可能かどうか、また条件付合格の場合の最低スコア要件なども把握しておくことが重要です。
国内大学合格に必要なIBスコアの目安
EDUBALが2024年5月に発表したアンケート調査(元IB生の現役大学生29名対象)や、Univ-it!によるIBDP修了生102名の受験データをもとにした合格スコアの目安は以下の通りです。
大学名 | 合格者IBスコア(目安) | 平均スコア(Univ-it!調査) |
---|---|---|
早稲田大学 | 32~45点(EDUBAL目安:41点) | 40.4点 |
慶應義塾大学 | 29~45点(EDUBAL目安:40点) | 39.3点 |
上智大学 | 29~45点(EDUBAL目安:39点) | 38.3点 |
国際基督教大学(ICU) | 32~42点(EDUBAL目安:-) | 38.2点 |
ただし、これらのスコアはあくまで目安であり、実際の合否は他の要素(面接、小論文など)も含めて総合的に判断されます。最低スコアは大学によって異なりますが、基本的には35点が合格のボーダーラインになることが多いようです。
出典:Univ-it – 大学に合格するために必要なIBスコア、EDUBAL – IBスコアと大学進学の関連性
なぜ予測スコアが大学出願で重要なのか?
試験結果と出願時期のギャップ
IBDPには、最終試験の結果発表時期と大学出願締め切りの間に時間的ギャップが存在します。
- 5月試験コース(北半球の多くの学校):
- 最終試験実施: 5月
- 結果発表: 7月5日頃
- 大学出願締切: 前年10月〜当年4月
- 11月試験コース(南半球や日本の多くの学校):
- 最終試験実施: 11月
- 結果発表: 翌年1月5日頃
- 大学出願締切: 多くの北半球の大学は前年12月頃まで
つまり、最終試験の結果を待っていては大学出願に間に合わない状況が生じます。
大学側の対応策としての予測スコア制度
このスケジュール問題を解消するため、多くの大学が予測スコアを用いた出願制度を導入しています。大学側にとってもIBの予測スコアは以下の理由から信頼性の高い指標として認識されています。
- IBの厳格な教育・評価システム全体への信頼
- IB教員の専門性への信頼
- 過去データによる予測スコアと最終スコアの相関性の高さ
- 世界統一基準による評価の一貫性
出典:UCAS – Predicted grades guidance
各国・地域によって予測スコアの扱いは異なります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

予測スコアを使った大学出願の仕組み
出願プロセスの基本
- 学校のIBコーディネーターや担当教員から発行
- 学校側が出願システムに直接入力(UCASなど)または成績証明書の一部として提出
合格通知の種類
- 条件付合格(Conditional Offer)
最終スコアが一定の条件を満たした場合のみ入学が認められる - 無条件合格(Unconditional Offer)
予測スコアで完全な合否判定を行い、最終スコアでは合否が左右されない
アメリカの大学では主に無条件合格が採用され、イギリスやオーストラリアなどでは条件付合格が一般的です。
出典:TutorsPlus – IB Predicted Grades
出願スケジュール例:オーストラリアの大学
例えば11月に最終試験を受け、翌年7月入学を目指す場合
9月〜10月 | 予測スコアで大学へ出願 |
10月〜11月 | 条件付き合格 |
11月 | IB最終試験 |
翌年1月 | 最終スコア発行 |
1月〜3月 | 大学からの最終合否判定 |
3月〜5月 | 大学入学準備 |
7月 | 大学入学 |
予測スコアに不満がある場合の対応
予測スコアが期待と異なる場合の効果的なアプローチ
- 担当教員との建設的な対話:具体的な根拠を示しながら話し合う
- 具体的な改善計画の提示:より高いスコアに見合う努力を示す
- 追加の証拠の提出:授業外での学習成果や追加課題を提示する
重要なのは、この対話が「交渉」ではなく「相互理解と成長のための対話」であるという姿勢です。教員もまた、生徒の可能性を最大限に引き出したいと考えています。
出典:Think Smart Tutoring – How to improve predicted grades

国際バカロレア(IB)スコアと大学進学 – 目指すべきスコアの設定
IBディプロマ取得の基本要件
- 45点満点中24点以上を獲得すること
- CASの必須要件を完了すること
- 特定の失格条件に該当しないこと
- その他科目ごとの最低点要件
大学入学に必要なスコアの目安
目安スコア表
進学先の目安 | 世界大学 ランキング | |
42点以上 | 超難関大学 | 10位以内 |
36点以上 | 50位以内 | |
30点以上 | 難関大学 | 100位以内 |
24点以上 | フルディプロマ取得 |
TutorChaseの調査によれば、「2024年の世界的なIBの平均スコアは45点満点中30.3点」であり、「2024年にハーバード大学やアイビーリーグの大学を目指す学生は、一般的に39~42点のIBスコアを取得すべき」とされています。
出典:TutorChase – IB Grades Explained
特定の科目に求められるスコア
多くの大学では、総合点に加えて特定の科目でのスコア要件があります
例えば
- 医学部志望
化学と生物学でそれぞれ6以上(HLレベル) - 工学部志望
数学と物理で6以上(少なくとも一方はHLレベル) - 経済学部志望
数学で5以上(SLまたはHL)
これらの要件は大学・学部によって大きく異なるため、志望校の公式サイトやIB入試要件を必ず確認することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
- 予測スコアと最終スコアの差はどれくらい?
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通常は大きな差は生じませんが、上下に数点の差が生じることはあります。IB体験者の中には「予測が33点で最終が38点」という例も。(出典:IB体験者のブログ – 予測スコアと最終スコアの差)
- 予測スコアを高めるためのコツは?
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授業への積極参加、模擬試験への真剣な取り組み、内部評価の早期開始、教師のフィードバックの活用が効果的です。
- 低い予測スコアが出た場合の対応は?
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改善が必要な分野の特定、教員との対話、弱点分野への集中的取り組み、過去問演習の強化、必要に応じて家庭教師の検討が有効です。
- 日本の大学で予測スコアを使える入試制度はどんなのがある?
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日本の大学では主に以下の入試制度で予測スコアが活用されています。
- IB入試:IBディプロマ取得(見込み)者を対象とした特別入試
- 帰国生入試:IB資格を持つ帰国子女を対象とした入試
- 総合型選抜(AO入試):IBスコアを評価材料の一つとして活用
- 英語学位プログラム入試:英語で学位が取得できるプログラムの入試
- 予測スコアと実際のスコアに大きな差が出た場合、大学の合格はどうなる?
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- 予測より高いスコア:問題なく入学可
- わずかに低いスコア:多くの大学は柔軟に対応
- 大幅に低いスコア:条件を満たさない場合、合格取り消しも
出典:TutorsPlus – What happens if final scores differ from predictions
- 模擬試験はなぜ予測スコアにとって重要なの?
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模擬試験は本番の試験環境・形式を再現しているため最も信頼性の高い指標となり、学習の進捗状況を総合的に評価できます。多くの学校では予測スコア算出の主要な基準として使用されています。
予測スコアを理解する
国際バカロレアの予測スコアは、あなたの努力と成長、そして可能性を映し出す指標であり、大学進学への重要な鍵となります。
日々の授業や課題に真摯に取り組み、特に模擬試験には万全の準備で臨むことが、納得のいく予測スコア、そして最終的な成果につながるでしょう。
予測スコアのシステムを正しく理解し戦略的に活用することで、望む進路を切り拓く可能性が広がります。ただし、スコアにとらわれすぎず、IB教育の本質である批判的思考力や国際的視野、探究心を育むことも同様に重要です。
疑問や不安があれば、学校の先生に積極的に相談しましょう。