国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)とは、スイスのジュネーブに本部を置く国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムで、1968年にチャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、以下の3つのような目的として設置されました。
- 世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成する。
- 未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせる。
- 国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保する。
令和4年9月30日時点で、国際バカロレアは世界で160以上の国と地域、約5,500校以上が導入しているプログラムです。
国際バカロレアの教育プログラム
- 対象:3歳〜12歳
- 小学校相当
- 初等教育課程
- 対象:11歳〜16歳
- 中学校相当
- 中等教育課程
- 対象:16歳〜19歳
- 高校相当
- ディプロマ課程
所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験で所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。
日本の認定校
認定校 | 候補校 | |
---|---|---|
PYP | 63校 | 46校 |
MYP | 39校 | 16校 |
DP | 68校 | 8校 |
上記のうち、学校教育法第1条に規定されている学校で、DPを実施している45校では、日本の高校卒業資格も同時に取得することができます。
国際バカロレアの特徴
- 探究する人
- 知識のある人
- 考える人
- コミュニケーションができる人
- 信念をもつ人
- 心を開く人
- 思いやりのある人
- 挑戦する人
- バランスのとれた人
- 振り返りができる人
国際バカロレア(IB)のプログラムを通して、10個の人間性を身につけていく事をビジョンとしています。
そのため、IBで授業を担当する先生たちは、授業を設計する際には上記10個の学習者像のうち、どの人間性を身につけることに役立つのかを単元毎に言語化して、事前に計画に組み入れておかなければいけません。
ここまでは国際バカロレアの概要や認定校について説明してきましたが、実際に国際バカロレア認定校に通うとどのようなメリットやデメリットがあるのかをみていきます。
国際バカロレアDPでの学び
一般的に国際バカロレア=IBというと、高校生が対象になっているディプロマ・プログラムであるIBDPの事を指します。
ディプロマとは認定証書のことで、IBDPのカリキュラムを約2年間履修し、最終試験で資格取得要件をクリアすることでディプロマ(認定証書)を得ることが出来ます。
IBDPの科目について
IBDPにはグループ1からグループ6までの6つの教科群があり、IBDP生徒はそれぞれのグループから1つずつ科目を選択しなければなりません。
グループ | 科目 | |
---|---|---|
グループ1 | 言語と文学 (母国語) | 言語A:文学 言語A:言語と文学、文学と演劇(SLのみ) |
グループ2 | 言語習得 (外国語) | 言語B、初級言語(SLのみ) |
グループ3 | 個人と社会 | 地理、歴史、経済、ビジネスと経営、情報テクノロジーとグローバル社会、哲学、心理学、社会・文化人類学、世界の宗教(SLのみ)、グローバル政治 |
グループ4 | 理科 | 生物、化学、物理、コンピュータ科学、デザインテクノロジー、スポーツ・エクササイズ・健康科学、環境システムと社会 |
グループ5 | 数学 | 数学:解析とアプローチ、数学:応用と解釈 |
グループ6 | 芸術 | 音楽、美術、ダンス、フィルム、演劇 |
各科目にはSL(Standart Level)とHL(Higher Level)の2種類があり、ディプロマを取得するためには、より広く深く学ぶHL教科を最低3つ取得する必要があります。
科目選択
HLを3科目
SLを3科目
選択する科目は志望する進路によって選択することが大切で、また受講できる科目は各学校によって違ってくるので注意が必要です。
IBDPのコア科目について
上記6グループのほか、IB教育の大きな特徴でもあるコア科目として以下の3科目が必修となっています。
- TOK(Theory of Knowledge)
知識の本質について考え、主張し、分析します。 - EE(Extended Essay)
関心のあるテーマを元に論文をまとめます。 - CAS(Creativity, Activity & Service)
課外活動やボランティアなどを行い、振り返りをします。
ディプロマの取得方法
6科目×7点=42点
42点+コア科目3点=45点満点
24点以上で資格取得※他要件もあり
国際バカロレア資格(IBDP)の取得には、DPのカリキュラムを全て履修し、内部評価と外部評価(国際バカロレア試験等)があります。
各科目1点から7点の範囲で評価がされ、6科目×7点(42点)にコア科目の3点を加えた45点満点中、原則として24点以上を取得する必要があります。
合格点(最高点) | 7 | Excellent |
合格点 | 6 | Very Good |
合格点 | 5 | Good |
合格点 | 4 | Satisfactory |
不合格 | 3 | Mediocre |
不合格 | 2 | Poor |
不合格(最低点) | 1 | Very Poor |
国際バカロレアのメリット
メリット1
海外の大学入学資格を得られる
国際バカロレアの最大の特徴として、高校2年生と3年生で所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験で所定の成績を収めることで、国際的に認められた大学入学資格が取得できるという点です。
この国際バカロレア資格は、有名なハーバード大学やオックスフォード大学、ケンブリッジ大学など世界のトップ大学も入学資格として認めていて、日本の学校に通いながら世界基準の大学への入学資格を得ることができるということになります。
進学先の目安 | 世界大学ランキング | |
42点以上 | 超難関大学 | 10位以内 |
36点以上 | 50位以内 | |
30点以上 | 難関大学 | 100位以内 |
24点以上 | フルディプロマ取得 |
IBDPの最終スコアによっては、アメリカやイギリスのトップ校はもちろん、世界100ヵ国以上の大学での入学資格となりますので、カナダやオーストラリア、ヨーロッパ、アジア諸国の世界大学ランキング上位の名門大学への進学も開かれることになります。
大学や学部によっては、国際バカロレアの資格だけでなく、科目要件や英語の要件などが必要になることもありますが、1つの要件をクリアすることができるのはとても魅力が高いです。
大学の単位に変換も
また、海外の大学においては、国際バカロレアの上級レベル(HL)で受講した科目において、一定の得点を取得した場合には、入学後の単位に変換できるといったケースも多く見られます。
メリット2
国内大学のIBを活用した入試
日本国内でもIBDPを活用した入試制度も広がってきていて、東京大学や京都大学などの国公立大学や、早稲田大学や慶應義塾大学などの名門私立大学でも入試制度を設けていたりします。
まだまだ活用できる幅には限りがありますので、自分が目指している事、将来やりたい事に合致した大学への進学に使えるのかどうか確認が必要です。
メリット3
英語力の向上が期待できる
IBDPの授業は原則として英語などの言語で行われることとなっていて、日本語DPの場合でも2科目は英語での受講となります。この2科目に関しては基本オールイングリッシュでの授業となります。
またIBDPの教科書は英語で記載されているものを使用するので、英語に触れる時間は必然と多くなり、日本語DPといえど英語力の向上が期待できます。
メリット4
論理的思考が身につけられる
国際バカロレア資格(IBDP)の提出しなければいけない課題をこなしたり、最終試験でハイスコアを取るためには、暗記をするだけでは不可能です。
IBの学習者像にもある「探究する人」、「考える人」などの育成が目的とされているように、IBの学習において深く考える力というのは必要不可欠なものとなっています。
実際にIBの授業では生徒同士のディスカッションやディベート、プレゼンやエッセイなどの課題が多く出されいて、自分の意見をまとめたものを伝える(アウトプットする)必要があります。
国際バカロレア認定校に通うデメリット
デメリット1
認定校の選択肢が少ない
令和6年3月31日時点で、国際バカロレア認定校等の数は241校となっていて、IBDPの認定校は68校、候補校は8校のみとなっています。
そのため、まだまだ選択肢に限りがあるので、ご自宅の近くにない場合は「時間をかけて通う」や「寮などに住む」ということが必要になってきます。
デメリット2
学費が高くなるかも…
国際バカロレアのプログラムを実施している多くは、インターナショナルスクールや私立校となっているので、公立校に比べて学費はかなり高くなっています。
ただ、最近では公立校でもIBの認定校になっているところも増えてきているので、学費が高いというデメリットを受けない場合も出てきています。
デメリット3
学習量が多い
国際バカロレアプログラムは教育の質が高い反面、それに伴う犠牲として「時間的な負担」や「精神的な負担」が多くかかってきます。
日々の課題量が多かったり提出に追われたり、作業に追われたりとあるので、効率の良い時間管理ができていないとカリキュラムについて行くだけでも大変ですし、やる事に追われて精神的に参ってしまうという事例も聞きます。
デメリット4
一般的な大学ルートが難しい
国際バカロレアのプログラムで履修する科目をこなすだけでも、上記の通り学習量が非常に多くなっていますので、その上さらに一般コースの生徒と同じ学習をしていくというのは現実的ではありません。
日本の高校卒業資格を得ることはできますが、大学入学共通テスト(センター試験)を受けた上で大学への進学というのには、一般コースに通っている学生と争うことになるので不利になるかと思います。
そこで、国際バカロレア生が目指す国内への大学入学ルートとしては、AO入試や帰国子女入試のような総合型選抜、IB生徒だけを対象としたIB入試などが主になってきます。
国際バカロレアがおすすめな人
国際バカロレアの最大の特徴は、前述したように日本の学校に通いながら国際的に認められた大学入学資格を得ることができるということです。
そのことからも、高校卒業後に「グローバルな世界で活躍したい!」というお子さんや、「グローバルな世界で活躍できるようにしてあげたい!」と考える親御さんにおすすめのプログラムといえます。
日本政府としてもグローバルな人材を育成するために、2012年から国際バカロレアの普及促進を促しています。近年では2021年にも認定校を増やしていく意向を発表されていました。
日本語で受講するIBDP
DPの授業や試験は、原則として英語・フランス語・スペイン語で行う必要がありますが、文部科学省と国際バカロレア機構が協力して、DPの一部の科目を日本語でも受講が可能となりました。
- 経済
- 地理
- 歴史
- 生物
- 化学
- 物理
- 数学
- 数学スタディーズ
- 音楽
- 美術
- 知の理論(TOK)
- 課題論文(EE)
- 創造性・活動・奉仕(CAS)
(ただし、日本語DPでも6科目中2科目(通常、グループ2(外国語)に加えて更に1科目)は、英語等で履修する必要。)
令和6年3月31日時点で日本語DP実施校は35校となっています。
日本国内における国際バカロレアの現状
「グローバル人材育成推進会議」が国際バカロレア資格校を5年以内に200校にするよう提言。
安倍内閣による日本再興戦略において、「2018年度までに国際バカロレアのDP校を200校にする」という目標が改めて明記。
加藤勝信官房長官は国際バカロレア認定校を2022年度までに200校以上とする目標達成に向けて、引き続き取り組んでいく意向を示しました。
国際バカロレア認定校・候補校のプログラム数が200校を超えた。
国際バカロレア認定校等数:207校(2023年3月14日時点)
認定校 | 候補校 | |
PYP | 59校 | 31校 |
MYP | 34校 | 11校 |
DP | 67校 | 5校 |
IB認定校が抱える問題
令和4年9月30日時点で国際バカロレア認定校は184校となっています。2013年当初に掲げた「2018年までに200校以上」という目標を達成することができていません。
バカロレア認定校導入の課題
- 教員の問題
- 言語の問題
- コストの問題
①教員の問題
国際バカロレアでは、少人数での授業が前提とされている(DPでは1コース20人程度)ため、全体的に教員の数を増やす必要がありますが、国際バカロレアの理念などを理解した国際バカロレア機構の認定を受けた教員を確保することは大きな課題となっている。
②言語の問題
日本語DP(ディプロマプログラム)により、一部のカリキュラムでは日本語での実施が可能となりましたが、
は英語などの言語でする必要があるため、外国人教員を採用するか、外国語で授業をスムーズに進められるような日本人教員を教育・採用しなければいけません。
③コストの問題
IB認定校として国際バカロレアの教育プログラムを実施するには、提供されるさまざまなサービスに対して年間約10,000ドルの年会費を支払う必要があります。
2022-23の費用は、DPが11,650ドル、MYP:10,050ドル、PYP:8,520ドルとなっていました。
まとめ
国際バカロレア(IB)のプログラムは、グローバル化が進む現代社会において重要な教育プログラムであり、国としても推し進めていることが分かりました。
海外大学への入学資格になるだけでなく、日本国内の大学でもバカロレア生徒用の入試を設けたりという動きもあります。しかし、デメリットとして挙げられた課題も無視はできません。
特に、DP認定校の選択肢の少なさや、インター校・私立校の学費の高さは、IB教育へのアクセスを限定してしまう可能性があります。
国際バカロレア(IB)教育という選択肢
最終的には、IB教育の選択は個々の学生のニーズ、目標、価値観に合ったものを選ぶべきです。
そのためには、教育機関、政府、関係者が連携し、より多くの人々にこの素晴らしい教育プログラムを提供できるよう努めていただき、子供たちの選択の幅が広がることを期待します。