国際バカロレアとは? これだけは知っておきたいIB教育のメリット、デメリットを分かりやすく解説

「グローバル人材」という言葉が日本社会で定着し、その育成方法の一つとして注目を集めているのが「国際バカロレア(International Baccalaureate: IB)」教育です。

国際バカロレアは単なる英語教育ではなく、批判的思考力や問題解決能力、異文化理解力など、グローバル社会で活躍するために必要な総合的な能力を育成するプログラムです。

この記事では、国際バカロレア教育の概要から、メリット・デメリット、日本の最新動向、そして選択すべき人の特徴まで、幅広く解説していきます。

目次

国際バカロレア(IB)の基本概念

国際バカロレアの定義と歴史

国際バカロレア(IB)は、スイスのジュネーブに本部を置く国際バカロレア機構(IBO)が提供する国際的な教育プログラムです。

1968年に「チャレンジに満ちた総合的な教育プログラム」として設立され、以下の3つを主な目的としています

国際バカロレアの目的
  1. 世界の複雑さを理解して対処できる生徒の育成
  2. 未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルの習得
  3. 国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)の提供

世界と日本における国際バカロレアの普及状況

2025年5月時点で、国際バカロレアは世界160以上の国と地域、約5,800校で導入されています。文部科学省IB教育推進コンソーシアムによると、2024年12月31日時点での日本国内の認定校等の数は251校です。

プログラム認定校候補校合計
PYP67校48校115校
MYP40校17校57校
DP71校7校78校
CP0校1校1校
出典:IB教育推進コンソーシアム(2024年12月31日時点)

国際バカロレアの理念と教育プログラム

国際バカロレアは「学習者像(IB Learner Profile)」として、次の10の人間性を育むことを目指しています。

スクロールできます
  1. 探究する人
  2. 知識のある人
  3. 考える人
  4. コミュニケーションができる人
  5. 信念をもつ人
  6. 心を開く人
  7. 思いやりのある人
  8. 挑戦する人
  9. バランスのとれた人
  10. 振り返りができる人

国際バカロレアは、生徒の年齢に応じて4つの教育プログラムを提供しています。

PYP
(Primary Years Programme)
3~12歳対象、探究型の学習
MYP
(Middle Years Programme)
11~16歳対象、概念的理解と学習の関連性を重視
DP
(Diploma Programme)
16~19歳対象、大学入学資格となるディプロマが取得可能
CP
(Career-related Programme)
16~19歳対象、キャリア教育と職業教育に焦点

一般的に国際バカロレア=IBといえば、高校レベルのDP(ディプロマ・プログラム)を指すことが多いです。

国際バカロレアDPのカリキュラムと資格取得

IBDPのカリキュラム構成

国際バカロレア・ディプロマ・プログラム(IBDP)では、6つの教科群から1科目ずつ、合計6科目を選択して学びます。

グループ
グループ1言語と文学(母国語)
グループ2言語習得(外国語)
グループ3個人と社会(歴史、経済、地理など)
グループ4理科(生物、化学、物理など)
グループ5数学
グループ6芸術(または他のグループから選択可)

各科目には「標準レベル(SL)」と「高度レベル(HL)」があり、6科目のうち少なくとも3科目をHLで履修する必要があります。

さらに、以下の3つのコア科目が必修となっています。

  • TOK(Theory of Knowledge)
    知識の本質を探究する
  • EE(Extended Essay)
    研究論文(4,000語程度)を作成する
  • CAS(Creativity, Activity & Service)
    創造的活動、身体的活動、ボランティア活動に取り組む

ディプロマ(資格)取得の評価方法

IBDPの評価

各教科は1~7点で評価され、6教科で最大42点
コア科目(TOK、EE)で最大3点が加算される
合計45点満点中、24点以上でディプロマ(資格)取得

ただし、HLで12点以上、SLで9点以上取得することなど、いくつかの追加条件も満たす必要があります。

国際バカロレア資格(IBDP)の取得には、DPのカリキュラムを全て履修し、内部評価と外部評価(国際バカロレア試験等)があります。

各科目1点から7点の範囲で評価がされ、6科目×7点(42点)にコア科目の3点を加えた45点満点中、原則として24点以上を取得する必要があります。

合格点(最高点)7Excellent
合格点6Very Good
合格点5Good
合格点4Satisfactory
不合格3Mediocre
不合格2Poor
不合格(最低点)1Very Poor

日本語DPについて

2013年から、日本では一部の科目を日本語で受講・試験を受けられる「日本語DP」が導入されました。ただし、日本語DPでも6科目中2科目(通常はグループ2の外国語と、もう1科目)は英語などで履修する必要があります。

2024年3月時点で、日本語DP実施校は日本国内に35校あります(出典:文部科学省「国際バカロレア認定校一覧」2024年3月時点)

国際バカロレアのメリット

海外大学進学へのグローバルパスポート ⭕️

国際バカロレアの最大のメリットの一つは、世界100カ国以上、20,000校以上の大学で入学資格として認められていることです。ハーバード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学などの世界トップクラスの大学もIBディプロマを高く評価しています。

IBDPの最終スコアによって進学できる大学のレベルの目安は以下のようになります

進学先の目安世界大学ランキング
42点以上超難関大学10位以内
36点以上50位以内
30点以上難関大学100位以内
24点以上フルディプロマ取得

さらに、多くの海外大学では、IBの上級レベル(HL)で一定の得点を取得した場合、入学後の大学の単位として認定してもらえる場合もあります。

国内大学のIB入試活用 ⭕️

日本国内でも、IBを活用した入試制度を導入する大学が増えています。

文部科学省IB教育推進コンソーシアムの公式情報によると、東京大学、京都大学、筑波大学などの国公立大学や、早稲田大学、慶應義塾大学などの私立大学でIB入試が実施されています(出典:IB教育推進コンソーシアム「IBを活用した大学入学者選抜例一覧」2024年1月時点

IBを活用した入試の主なメリット

  • 受験者数が少なく、競争率が低い傾向にある
  • 多くの大学で共通テストが免除される
  • 総合的な評価(IB資格や点数、面接、小論文など)が行われる

語学力・思考力・問題解決能力の向上 ⭕️

IBプログラムでは、批判的思考力や問題解決能力を重視します。授業は教師から一方的に知識を与えられるのではなく、生徒同士のディスカッションやディベート、プレゼンテーション、エッセイなどを通じて、自ら考え、表現する力を養います

また、IBの授業は原則として英語などの言語で行われるため(日本語DPの場合でも2科目は英語で受講)、英語力の向上も期待できます

国際的な視野と異文化理解力の養成 ⭕️

IBは文化的多様性を尊重し、異なる価値観や伝統を受け入れる姿勢を育みます。授業では様々な国の文化や社会問題について学ぶ機会が多く、グローバルな視点で物事を考える力が養われます。

また、CAS活動では国際的なボランティア活動に参加することもあり、実践的な異文化体験の機会も得られます。

将来のキャリア形成における優位性 ⭕️

IBディプロマを取得する過程で培われる批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力は、大学卒業後の就職活動やキャリア形成においても大きなアドバンテージとなります。

特に、グローバル企業や国際機関での就職を目指す場合、IBの経験や資格は高く評価される傾向があります。

日本経済団体連合会の報告によると、グローバル企業を中心に、IBディプロマ取得者の批判的思考力やコミュニケーション能力を評価する動きが出てきており、就職活動において優位性が認められるケースが増えています(出典:日本経済団体連合会「世界を舞台に活躍できる人づくりのために」

国際バカロレアのデメリットと課題

認定校の選択肢の少なさと地域的偏り ❌

日本国内の国際バカロレア認定校は増加しているものの、その多くは首都圏や大都市に集中しています。

地方在住の場合、近くにIB認定校がない可能性が高く、寮生活や長時間の通学が必要になることもあります。特に高校レベルのDP認定校は71校(候補校7校)と限られており、地域によっては選択肢がほとんどないのが現状です。

学費や経済的負担の問題 ❌

国際バカロレアプログラムを提供している学校の多くは私立校やインターナショナルスクールであり、公立校に比べて学費が高額になる傾向があります。年間学費が100万円を超える学校も少なくありません。

また、IBプログラム自体にも運営コストがかかります。国際バカロレア機構に支払う年会費は、2025年時点でDPが約12,000ドル(約180万円)程度となっています。これらのコストの一部は生徒の学費に反映されます。

学習量の多さと精神的負担 ❌

IBDPのカリキュラムは非常に厳しく、学習量も多いことで知られています。6教科に加えてコア科目(TOK、EE、CAS)もこなす必要があり、日々の課題や提出物に追われることになります。

リサーチや論文作成、プレゼンテーションなど、自分で考え、まとめる作業が多く、単なる暗記だけでは対応できません。このため、時間管理能力が求められ、効率よく学習できない場合はストレスが溜まる原因となります。

一般的な大学入試ルートとの両立の難しさ ❌

IBプログラムの学習だけでも負担が大きいため、日本の一般的な大学入試(共通テストや一般入試)に向けた学習と両立するのは非常に困難です。

日本の全ての大学や学部でIB入試が実施されているわけではないため、希望する大学・学部によっては一般入試で受験する必要があることもあります。

日本における課題 ❌

日本で国際バカロレアの導入が進まない背景には、以下のような課題があります

  1. 教員の確保と育成
    IBプログラムを教えられる資格を持つ教員が不足しています。
  2. 言語の問題
    日本語DPの導入で改善されつつありますが、依然として一部の科目は英語での受講が必要です。
  3. 導入・運営コスト
    認定校になるには施設や設備の整備、教員の養成など多額の初期投資が必要です。

日本における国際バカロレアの最新動向(2025年版)

認定校数と分布の最新状況

文部科学省IB教育推進コンソーシアムの公式データによると、2024年12月31日時点での日本国内の国際バカロレア認定校等の数は251校となっています(出典:IB教育推進コンソーシアム「国内の国際バカロレア認定校等数」

このうち、日本の学校教育法第1条に規定されている学校(一条校)でDPを実施している学校は37校あり、これらの学校では日本の高校卒業資格と国際バカロレア資格を同時に取得することができます。

文部科学省・政府の政策と推進状況

日本政府は2013年の「日本再興戦略」において、「一部日本語による国際バカロレアの教育プログラムの開発・導入等を通じ、国際バカロレア認定校等の大幅な増加を目指します(2018年までに200校)」という目標を掲げました(出典:「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日 閣議決定)

この目標は2023年3月に達成され、文部科学省の発表によると2023年3月14日時点で国際バカロレア認定校等数は207校となりました(出典:文部科学省プレスリリース「国際バカロレア認定校等の数が200校を超えました」(2023年3月14日)

現在、文部科学省は「IB教育推進コンソーシアム」を立ち上げ、IBの普及促進や質の向上、教員養成などに取り組んでいます

IB入試を導入している国内大学

2025年5月現在、日本国内の多くの大学でIB入試が実施されています。文部科学省IB教育推進コンソーシアムの公式情報によると、主な大学には以下が含まれます(出典:IB教育推進コンソーシアム「IBを活用した大学入学者選抜例一覧」(2024年1月時点)

大学名合格者のIBスコア目安(範囲)合格者(志願者)平均スコア
東京大学38~42点41点
京都大学41~44点[2]
筑波大学41[2]
東北大学35点前後(平均)[3]35.04点[3]
北海道大学34点前後(平均)[3]34.28点[3]
名古屋大学35点前後(平均)[3]35.81点[3]
九州大学34点前後(平均)[3]34.38点[3]
早稲田大学32~45点[4][5]40.4点[4]
慶應義塾大学29~45点[4][5]39.3点[4]
上智大学29~45点[4][5]38.3点[4]
国際基督教大学28~45点[5]38.6点[5]

IB入試の形態は大学によって異なりますが、一般的には書類審査、面接、小論文などを組み合わせた選考が行われます。

ただし、これらのスコア基準は非公式な情報や過去の合格実績に基づく目安であり、大学の公式発表とは異なる可能性があることに注意が必要です。

成功事例と注目の取り組み

日本国内の注目すべき成功事例としては以下のようなものがあります。

  1. 筑波大学附属坂戸高等学校
    公立の高校で日本語DPを実施している先駆的な例
    (出典:本弓康之「確かに国際バカロレアDPは「世界の大学へのパスポート」」2025年3月11日
  2. 文京区×国際バカロレア機構のプロジェクト
    2025年7月30日に開催予定の公教育へのIB導入の新しいモデル
  3. オンライン・ブレンド型IBの導入
    地理的な制約を超えてIB教育にアクセスできる可能性が広がっている取り組み

国際バカロレアが向いている人・向いていない人

適性と性格的特徴

国際バカロレアに向いている人

  • 好奇心が旺盛で探究心がある人
  • 自主的に学習を進められる自律性がある人
  • 批判的思考を楽しめる人
  • 議論やグループワークが得意な人
  • 異なる意見や文化に対して開かれた姿勢を持つ人
  • 時間管理能力に優れている人

国際バカロレアに向いていない可能性がある人

  • 受動的な学習スタイルを好む人
  • 暗記による学習が得意で、それ以外に抵抗がある人
  • グループワークが苦手な人
  • 複数の課題を同時進行することに困難を感じる人
  • 精神的なプレッシャーに弱い人

語学力と学習スタイル

日本語DPの場合でも2科目は英語などの外国語で履修する必要がありますが、完璧な英語力がなくても挑戦は可能です。

IBでは「なぜ」「どのように」という問いを中心に学習が進み、探究型の学習を好む人や、プロジェクトベースの学習が得意な人に向いています。正解が一つではない問いに取り組むことが多いため、創造的思考も求められます。

将来のキャリア志向

IBは以下のようなキャリア志向を持つ人に特に適しています。

  • 国際的なキャリア(国際機関、多国籍企業、NGOなど)を希望する人
  • 海外大学への進学を視野に入れている人
  • 学術・研究分野でのキャリアを目指す人
  • 創造的・革新的な分野でのキャリアを目指す人

国際バカロレア認定校への進学方法

STEP
国内IBの選択肢

日本国内でIB教育を受ける主な選択肢は以下の2つです

  1. 一条校(学校教育法第1条に規定された学校)
    • 日本の高校卒業資格とIBディプロマの両方を取得可能
    • 公立校の場合は比較的安価、私立校は高額な場合が多い
    • 日本語DPを実施している学校が多い
  2. インターナショナルスクール
    • 授業は基本的に英語で行われる
    • 授業料は一般的に高額
    • 日本の学校教育制度外の場合、日本の高校卒業資格は取得できないケースがある
STEP
進学に必要な準備と費用

国際バカロレア認定校に進学するためには、学校によって異なる入学試験や選考プロセスがあります。一般的には学力試験、面接、小論文などが実施されます。

費用については、学校の種類や地域によって大きく異なりますが、おおよその目安は以下の通りです。

私立一条校入学金20〜50万円
年間授業料100〜200万円程度
公立一条校一般公立校と同等またはやや高め
インターナショナルスクール入学金30〜100万円
年間授業料150〜300万円以上

これらの費用に加えて、IBプログラム特有の費用(試験料、登録料など)が別途必要となる場合があります。一部の学校では独自の奨学金制度を設けているほか、自治体や政府の支援プログラムもあります

まとめ
国際バカロレア教育という選択肢

国際バカロレア教育は、グローバル社会で活躍するための能力を育成する優れたプログラムですが、全ての学生に最適というわけではありません。

選択にあたっては、子どもの適性と興味、家族の価値観、実用的な考慮事項(地理的・経済的要因など)を総合的に検討することが重要です。

日本における国際バカロレア教育は、認定校の増加と多様化、デジタル化によるアクセス向上、日本の教育システムとの融合、経済的負担の軽減などの方向で今後も発展していくと予想されます。

国際バカロレア教育を検討する際は、複数の学校の情報収集と比較、実際の学校訪問、長期的視点での検討、そして必要に応じた専門家への相談など、慎重なアプローチが望ましいでしょう。

適性があり、十分な準備と支援があれば、IBプログラムは21世紀の世界で活躍するための優れた能力と視野を育む素晴らしい機会となります。


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