「Describe」と「Explain」の違いがわかりますか?
この小さな違いが、国際バカロレア(IB)の試験では20点と5点の差になることもあります。
日本の教育では教えられることが少ない「指示用語(Command Terms)」。しかしIBでは、この言葉の理解が試験の成否を分ける重要な鍵となります。
世界的に認められる学位を目指すIBプログラムでは、単に「正しい答え」を書くだけでは高得点につながりません。問題が求める「思考のプロセス」に沿った解答が求められるのです。
この記事では、IBの試験で高得点を獲得するために欠かせない指示用語の意味と活用法を徹底解説します。具体例とともに、科目別の対応法もご紹介しますので、IBに挑戦する生徒さんはもちろん、指導する先生方や応援する保護者の方々にも必見の内容です。
日本人学習者が知っておくべきこと
日本の従来の教育システムとIBでは、問題の出し方と評価の仕方に大きな違いがあります[1]。
- 日本の教育
知識を正確に再現することが重視される傾向があります。「次の問いに答えなさい」という形式が多く、どのように答えるかは自明とされることが多いです。 - 国際バカロレア(IB)教育
知識だけでなく、「どのように考えるか」が重視されます。そのため、各問題には指示用語が明示され、求められる思考のプロセスが指定されます。
この違いを理解せずに日本の受験スタイルのまま取り組むと、IBでは期待する成績を得られないことがあります。
日本語DPを受ける生徒のための注意点
日本語DP(デュアルランゲージ・ディプロマプログラム)を受ける生徒は、以下の点に特に注意しましょう[2]。日本語と英語で指示用語のニュアンスが異なる場合があります。
例えば:
- 「Evaluate(評価せよ)」は単に「良い・悪い」を判断するだけでなく、様々な角度から検討して判断することを意味します。
- 「Justify(正当化せよ)」は「自分の立場を守る」というよりも「証拠や理由を示して裏付ける」という意味です。
日本語DPでも、評価基準はIBOの国際基準に沿っています。日本の通常の高校の評価基準とは異なることを忘れないようにしましょう。
指示用語って何?試験での「隠れた指示書」

指示用語は、問題に答えるときに「どのように」答えれば良いかを教えてくれる言葉です。例えば、「説明しなさい(Explain)」「比較しなさい(Compare)」のような言葉が問題文に含まれています[3]。
日本の従来のテストでは「次の問いに答えなさい」とだけ書かれていることが多いですが、IBの問題では必ず指示用語があり、その言葉によって何をすべきかが変わります。
「指示用語は、試験官があなたに何をしてほしいかを伝えるサイン。このサインを見逃すと、どんなに知識があっても満点は取れません」 —IB経験者
指示用語の3つのレベル:難しさと点数の関係
IBの指示用語は、3つの難易度レベルに分かれています。これを「評価目標(AO)」と呼びます[3]
【指示用語の3段階】
- レベル3: 高度な思考力を使う言葉
(Evaluate評価する、Discuss議論する、など) - レベル2: 考えを応用する言葉
(Compare比較する、Analyze分析する、など) - レベル1: 基本的な知識を示す言葉
(Define定義する、Describe描写する、など)
大切なポイント
レベルが高い指示用語ほど配点が高くなります。でも、高いレベルの答えをするには、基本的な知識もしっかり必要です。
よく間違える指示用語:具体例で分かりやすく解説
「Describe(描写する)」と「Explain(説明する)」の違い
多くの生徒が混乱するのが、「Describe」と「Explain」の違いです[5]
問題例:植物の光合成について(各5点)
Describe(描写する)の回答例
光合成は植物が太陽の光を使って二酸化炭素と水から酸素と糖分を作り出す過程です。葉の中の葉緑体で行われ、明反応と暗反応の2段階があります。明反応では光エネルギーを化学エネルギーに変換し、暗反応ではそのエネルギーを使って糖を作ります。
Explain(説明する)の回答例
光合成は植物が生きるために必要なエネルギーを作る過程です。まず太陽光が葉緑体のクロロフィルに当たると、光のエネルギーを吸収します。このエネルギーを使って水分子を分解し、電子、水素イオン、酸素を生成します。酸素は副産物として放出されます。水から得た電子と水素イオンはNADPHとATPという物質を作り出し、これらが暗反応でエネルギー源として使われます。暗反応ではカルビン回路が働き、空気中の二酸化炭素をこれらのエネルギー源を使って糖に変換します。この糖が植物のエネルギー源となります。
違いを簡単に言うと
- Describe:「何が起こるか」を順番に説明する(目で見えることの説明)
- Explain:「なぜそれが起こるか」の理由も含めて説明する(原因と結果の説明)
「Compare(比較する)」と「Contrast(対比する)」の違い
もう一つよく間違えるのが「Compare」と「Contrast」です[6]
問題例:民主主義と独裁制について(6点)
- Compare(比較する)の場合
両方の政治システムの「似ているところ」と「違うところ」の両方を書きます。
例えば、どちらも国を統治する仕組みですが、国民の参加の度合いが違うことなどを説明します。 - Contrast(対比する)の場合
「違うところ」だけに焦点を当てます。選挙の有無、権力の集中度、表現の自由の違いなど、異なる点だけを強調します。
日本人によくある間違いと対策
日本人IB生徒がよく陥りがちな誤りと対策を紹介します[5]
❌ よくある間違い
日本語では「説明する」という言葉が広く使われるため、「Define(定義する)」と「Explain(説明する)」の違いが分かりにくいことがあります。
✅ 対策
- Define(定義する)
その言葉や概念の明確な意味を簡潔に述べる
(例:「民主主義とは、国民が選挙を通じて代表者を選び、政治に参加する統治形態である」) - Explain(説明する)
なぜそうなるのか、どのように機能するのかの理由や過程を詳しく述べる
❌ よくある間違い
「Evaluate(評価する)」を自分の意見や感想を述べるだけと誤解する
✅ 対策:評価には以下の要素を含める必要があります
- 異なる視点からの検討
- 長所と短所の両方の分析
- 証拠や例による裏付け
- バランスの取れた最終的な判断
❌ よくある間違い
教科書や参考書の内容をそのまま書いて、指示用語が求める思考プロセスを示さない
✅ 対策
- 知識はあくまで材料。指示用語に合わせて「どう考えるか」を示す
- 暗記した内容を指示用語に合わせて再構成する練習をする
- 問題を解く前に「この指示用語は何を求めているか」を自問する
日本の各科目での指示用語の例
日本語DPでよく使われる科目別の指示用語の例を紹介します[8]
【日本語A:文学】
Analyze(分析する)
文学作品の構造、テーマ、技法などを詳しく検討する
例:「夏目漱石の『こころ』における「先生」の心理的変化を分析しなさい」
Compare(比較する)
2つの作品の類似点と相違点を検討する
例:「芥川龍之介の『羅生門』と『藪の中』における視点の使い方を比較しなさい」
【歴史】
To what extent(どの程度まで)
ある要因の影響の程度を評価する
例:「明治維新の成功に欧米の影響はどの程度寄与したか」
Evaluate(評価する)
ある出来事や政策の重要性や効果を判断する
例:「高度経済成長が日本社会に与えた影響を評価しなさい」
【生物】
Describe(描写する)
生物学的プロセスや構造を説明する
例:「細胞分裂の過程を描写しなさい」
Explain(説明する)
生物学的現象の理由や機序を説明する
例:「ヒトの免疫システムがどのように病原体から身体を守るか説明しなさい」
【数学】
Calculate(計算する)
数値を求める
例:「以下の関数の導関数を計算しなさい」
Prove(証明する)
数学的命題が真であることを論理的に示す
例:「2つの奇数の和が常に偶数になることを証明しなさい」
試験で点数を上げるための簡単なテクニック
試験前の準備:指示用語カードを作ろう
試験対策として効果的なのは、カードを作ることです。
- 分かりやすい定義
- 答えに含めるべきこと
- 答えの組み立て方(始め→中身→まとめ)
- 教科ごとの例
これを毎日5分でも見るだけで、試験での対応力がぐんと上がります。
試験中のコツ:かんたん5ステップ法
試験中に指示用語を見たら、次の5つのステップで考えましょう。
問題文の中の「説明しなさい」などの言葉
頭の中で簡単に構成を考える
説明なら理由も含める、など
例えば、「インターネットは社会にどの程度良い影響を与えたか?」という問題では、「どの程度」が指示用語です。これは「良い影響」だけでなく「悪い影響」も考え、バランスよく評価することを求めています[9]。
先生と生徒のための楽しい活動
先生のための授業アイデア
「指示用語スタンプラリー」
先生方が協力して行う「指示用語スタンプラリー」という活動を紹介します[10]
- 教室の各所に主要な指示用語(分析する、評価する、比較するなど)を貼る
- 様々な教科の先生がグループになる
- 各グループが指示用語を回りながら、自分の教科ではその指示用語をどう教えているか話し合う
- 教科ごとの共通点と違いを整理する
- 生徒への教え方のコツを共有する
生徒のための楽しい練習
「言い換えゲーム」
生徒が指示用語の違いを理解するための「言い換えゲーム」も効果的です
- 簡単な問題を出す(例:「地球温暖化とは何か?」)
- 異なる指示用語を使って答えを書き換える練習をする
- Describe(描写する):地球温暖化の現象を説明
- Explain(説明する):地球温暖化が起こる理由を含めて説明
- Evaluate(評価する):地球温暖化の影響の良い面と悪い面を考える
この練習で、同じ内容でも指示用語によって答え方が大きく変わることが分かります[11]。
日本での大学入試と指示用語
興味深いことに、日本の大学入試も徐々に変化しています[12]
- 2020年度から始まった「大学入学共通テスト」では、単なる知識の再現だけでなく、思考力や判断力を問う問題が増えています
- IBの指示用語に近い「考察せよ」「分析せよ」といった表現が使われる問題も登場しています
- IBで培った指示用語への対応力は、日本の大学入試や大学での学びにも役立ちます
さらに、日本の多くの大学(東京大学や京都大学などの国公立大学、早稲田大学や慶應義塾大学などの私立大学)がIB入試を導入しています。IBのスコアを使って日本の大学に進学することも可能です[13]。
保護者の皆様へ – お子さんのサポート方法
IBに取り組むお子さんをサポートするためのアドバイスです
- 「なぜそう思うの?」「他の見方はある?」などと質問することで、批判的思考力を育みましょう
- 「その意見の良い点と悪い点は?」と聞くことで、バランスの取れた思考を促しましょう
- ニュースや社会問題について話し合うときに、「これについてどう評価する?」と問いかけてみましょう
- 指示用語カードの作成を手伝う
- 過去問を一緒に読んで、問題の指示用語を確認する
- 学校の先生と定期的に連絡を取り、お子さんの進捗を確認する
指示用語を理解するとIBだけでなく将来も役立つ!
指示用語を理解することは、IBの試験で良い点数を取るだけでなく、将来の大学生活や仕事でも役立ちます。
IBの先にある力
- 批判的に考える力:情報を評価し、自分で判断する力
- 論理的に考える力:考えを順序立てて組み立てる力
- 自分の考え方を理解する力:自分がどのように考えているかを理解し調整する力
指示用語マスターへの3つのステップ
指示用語の意味を正確に理解する
様々な教科で指示用語に合わせた答え方を練習する
自分の答えが指示用語の求めていることに応えているか確認する
指示用語の理解は一日でできるものではありませんが、少しずつ練習していくことで必ず上達します。IBでの良い成績だけでなく、これからの人生で役立つ「考える力」を身につけるきっかけになるでしょう。
参考文献・引用情報
- [1] 文部科学省IB教育推進コンソーシアム「国際バカロレア(IB)の教育とは?」, (2025年3月12日)
- [2] バイリンガルへの道「従来の日本の教育を覆す!国際バカロレアの内容」, (2015年12月1日)
- [3] IB Global Politics「IB Command Terms」, (2020年5月13日)
- [5] EDUBAL「IB生必見!知らないと試験で差が出る「Command term (指示用語)」とは?」
- [6] IB Global Academy「How to Use Command Terms Effectively in IB Exams」
- [8] 文部科学省IB教育推進コンソーシアム「DP(Diploma Programme)」, (2025年2月13日)
- [9] Lanterna「Understanding Command Terms in IB Exam Questions, (2024年12月11日)
- [10] IB Coordinator「Command Terms」
- [11] Teachers Pay Teachers「Command Terms Teaching Resources」
- [12] ロジムラボ「国際バカロレアとは 日本とここまで違う試験問題」, (2014年9月2日)
- [13] EDUBAL「IB(国際バカロレア)取得するメリット・デメリット」